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東京高等裁判所 平成6年(ネ)1528号 判決 1996年12月02日

主文

一  本件控訴をいずれも棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

理由

【事実及び理由】

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

2 被控訴人らの控訴人に対する請求をいずれも棄却する。

3 訴訟費用は第一・二審とも被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人ら

主文一と同旨

第二  事案の概要と証拠関係

以下、被控訴人山梨県を「山梨県」と、被控訴人日本道路公団を「道路公団」と、原判決別紙物件目録記載の各物件をその番号にしたがい「本件土地(一)」、「本件建物(二)」、「本件工作物(三)」、「本件土地(四)」、「本件土地(五)」、「本件土地(六)」、「本件建物及び工作物(七)」、「本件建物及び工作物(八)」、「本件工作物(九)」といい、山梨県富士吉田市上吉田字桧丸尾五六〇七番所在の土地を単に「桧丸尾」と地番のみでも表示し、平成八年五月二二日(当審口頭弁論終結時)現在の桧丸尾五六〇七番二七四の土地と本件土地(四)(桧丸尾五六〇七番二六八の土地)を併せて「本件土地」という。

一  本件は、山梨県が、その所有する土地上に控訴人が建物その他の工作物を所有するなどして土地を占有し、今後も建物等を設置して山梨県の土地使用を妨害する虞れがあるとして、次の甲、乙及び丙事件の各請求をし、道路公団が、本件土地(一)を山梨県より買い受けて所有するとして訴訟参加し、次の参加事件の各請求をした事案である。

甲事件 控訴人に対して土地所有権に基づき、本件建物(二)及び本件工作物(三)の収去と本件土地(一)の明渡

乙・丙事件 控訴人に対して土地所有権に基づき、本件建物及び工作物(七)の収去と本件土地(五)の明渡、本件建物及び工作物(八)の収去と本件土地(六)の明渡、本件工作物(九)の収去、本件土地(四)の上に建物及び工作物の設置禁止

参加事件 山梨県に対して、本件土地(一)の所有権確認

控訴人に対して、土地所有権に基づき本件建物(二)及び本件工作物(三)の収去と本件土地(一)の明渡

原裁判所は、山梨県の甲事件についての請求を棄却し、山梨県の乙、丙事件及び道路公団の参加事件についての各請求をいずれも認容したところ、控訴人がこれを不服として控訴したものである。

二  当事者間に争いのない事実及び容易に認定できる事実

以下、証拠等により認定したものは[ ]に掲げる。

1 本件土地の所有権の変遷

(一) 山梨県は、大正五年五月二日当時、当時の地番桧丸尾五六〇七番の山林七五町歩のうち本件土地を含む五四町歩余を所有していた。

(二) 山梨県は、大正五年五月二日、福地村外四ケ村恩賜県有財産保護組合に対し、本件土地を含む右五四町歩余を払い下げた。

福地村外四ケ村恩賜県有財産保護組合は、昭和二三年ころ「富士吉田町外四ケ村恩賜県有財産保護組合」となり、昭和二六年ころ「富士吉田市外二ケ村恩賜県有財産保護組合」となった(以下、右各保護組合を単に「保護組合」という。)。

(三) 保護組合は、大正一五年一一月二二日、富士山麓土地株式会社(以下「訴外会社」という。)に対し、右桧丸尾五六〇七番の土地五四町歩余のうち本件土地を含む一五万坪を売り渡した(以下「本件売買」という。)。

訴外会社は、その後、右一五万坪(五〇町歩)の土地を別荘地、道路用地として造成して分筆し、その一部を訴外会社の株主ら九〇余名に譲渡した。

[本件売買に本件土地を含むこと及び右別荘地としての譲渡について、《証拠略》]

(四) 国は、昭和二二年一〇月二日、訴外会社及び右別荘地を買い受けた株主ら等から、桧丸尾五六〇七番二三二及び二三三の土地(右一五万坪の土地を東西に横断する道路)より南側の土地で、本件土地を含む桧丸尾五六〇七番二〇八の土地外一六七筆の土地三七町歩余を自作農創設特別措置法により買収し(以下、これを「国の未墾地買収」という。)、これらを合筆して桧丸尾五六〇七番二五五として、昭和二五年二月一日、用途を薪炭林として梨ケ原開拓農業協同組合に売り渡した(所有権の登記は昭和二六年六月八日)。

[右買収及び売渡しに本件土地を含むことにつき、《証拠略》]

(五) その後、桧丸尾地区及び梨ケ原地区は、在日アメリカ合衆国軍隊(以下「合衆国軍隊」という。)に接収された。そして、昭和二八年一〇月以降、同地区における引揚者ら開拓者の耕作が禁止されたため、開拓者らは払下げを受けた土地について国に対し再度買上げの申請をした。国は、昭和二九年三月六日、右桧丸尾五六〇七番二五五の土地を含む桧丸尾地区及び梨ケ原地区を再び買収し、合衆国軍隊の演習場として提供した。

(六) 昭和三一年五月一日、大蔵省関東財務局長は、当時の忍草入会組合に対し、日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約(昭和三五年条約第六号による改正前のもの。以下、改正後のものを含めて「安保条約」という。)第三条に基く行政協定の実施に伴う国有の財産の管理に関する法律(昭和二七年法律第一一〇号。以下、昭和三五年法律第一〇二号による改正後の同法を含めて「国管法」という。)第四条一項に基づき、合衆国軍隊に演習場として提供された土地であった桧丸尾五六〇七番の土地(面積三四町八反八畝六歩)について、一時使用許可をし、右忍草入会組合は、右使用許可に基づき、本件土地に赤松、カラ松等を植栽した。

右一時使用許可は、その後も一年毎に更新され、昭和四八年三月一六日付けの許可書により昭和四九年三月三一日までの許可がされたが、その期間満了前の昭和四八年五月一九日までに、合衆国軍隊から本件土地を含む北富士演習場が返還され、後記認定のとおり、横浜防衛施設局長から忍草入会組合に対し、その旨及び最終の返還日である昭和四八年五月一九日をもって一時使用許可が終了した旨の通知がされた。

(七) 国は、右桧丸尾五六〇七番二五五の土地から桧丸尾五六〇七番二六八の土地を分筆し、昭和五二年九月五日、右桧丸尾五六〇七番二六八の土地を山梨県に売り渡した(以下「本件国有財産払下げ」という。)。これが、いわゆる北富士県有地二一四ヘクタールのうち桧丸尾地区に該当する土地である。

(八) 昭和五九年八月一六日、右桧丸尾五六〇七番二六八の土地から、同番二七四の土地が分筆された(右分筆後の桧丸尾五六〇七番二六八と二七四の各土地が本件土地である。)。

(九) 山梨県は、道路公団に対し、昭和五九年七月二〇日、桧丸尾五六〇七番二七四の土地を売り渡した。

2 忍草入会組合

忍草入会組合は、現在の山梨県南都留郡忍野村忍草区(忍草部落ともいわれる。以下「忍草部落」という。)に、主として明治時代から継続して居住し、現に農業を専業とする家の世帯主をもって構成され、目的として忍草部落固有の入会地の保護管理及び利用並びに入会地から生ずる収益(現物及び金銭)の管理運営等を、業務として入会地及び入会財産にかかわる一切の収益の管理運営及び処分に関する一切の事項等を、それぞれ掲げているいわゆる権利能力なき社団である。

3 占有

控訴人は、本件土地に入会権等を有するとして、次のとおり建物及び工作物等を設置して所有し、土地を占有している。

本件土地(一)上に本件建物(二)及び本件工作物(三)を所有し、同土地を占有

本件土地(五)上に本件建物及び工作物(七)を所有し、同土地を占有

本件土地(六)上に本件建物及び工作物(八)を所有し、同土地を占有

本件土地(四)上に本件工作物(九)を所有

三  主たる争点及びこれに関する双方の主張の要点

(控訴人が当審において補足した主張のうちこの欄に摘示しないものについては、必要に応じて後記争点に対する判断の中で触れることとする。)

1 本件国有財産払下げ(国より山梨県への昭和五二年九月五日、桧丸尾五六〇七番二六八の土地売渡し)は無効か。

(一) 控訴人の主張

随意契約により行われた本件国有財産払下げは、(1) 会計法二九条の三第五項、予算決算及び会計令(以下「予決令」という。)九九条に定める場合に当たらず、(2) 会計法二九条の八、予決令一〇〇条一項七号に定める契約書の記載事項を欠き、(3) 売買代金が低額で公正性を欠く等により、民法九〇条にも反するものである。その詳細は、原判決書九枚目裏六行目から一〇枚目裏四行目までのとおりであるからこれを引用する。

(二) 被控訴人らの主張

本件国有財産払下げが、山梨県と保護組合等地元地方公共団体とが共同して林業整備事業をすることを前提としていることは、予決令九九条二一号に定める場合に該当するものであるし、右払下げに際して締結された契約書の二八条及び二九条には契約に関する争いの解決方法を規定してあり、予決令一〇〇条一項七号の要請は右の条項の記載をもって充たされている。

2 忍草部落の住民に入会権があるか。

(一) 控訴人の主張

(1) 忍草部落の住民は江戸時代から本件土地を含む梨ケ原付近一体に入会権を有する。(2) 右入会権が、本件売買あるいは昭和二二年の国の未墾地買収で消滅したことはない。(3) 右入会権が本件売買あるいは国の未墾地買収で消滅したとしても、その後も控訴人の管理統制の下に本件土地への入会を継続してきたものであるから、新たに右入会権が再発生したものである。右主張の詳細は、原判決書一〇枚目裏七行目から一一枚目裏三行目まで、一四枚目表三、四行目及び、九、一〇行目のとおりであるからこれを引用する。

(二) 被控訴人らの主張

忍草部落の住民が、本件土地を含む梨ケ原付近一体に、古来、小柴、下草刈り等(特に桧丸尾地区については採石)を内容とする入会権を有していたことは認め、国による未墾地買収後に入会権が再発生したとの点は争う。なお、仮に控訴人が本件土地に入会権を有するとしても、控訴人らが本件土地上に設置した本件の各建物及び工作物は、専ら東富士五湖道路建設阻止及び合衆国軍隊と自衛隊の演習妨害を目的として設置されたいわゆる団結小屋等であって、入会権の行使とは無関係なものであるから、本件土地の占有の根拠とならない。忍草部落の住民が古来有した入会権は、本件売買あるいは国の未墾地買収により消滅したものである。その詳細は、原判決書一三枚目表六行目から同裏九行目のとおりであるからこれを引用する。

3 控訴人に地上権又は賃借権類似の使用収益権が存在するか。

(一) 控訴人の主張

昭和三一年五月一日、国が控訴人に対し、国管法に基づき桧丸尾五六〇七番の土地三四町八反八畝六歩につき植林目的での一時使用許可を与えたことにより、又は、昭和四八年に右使用許可が終了した時点で、本件土地に、植林及び林業経営を目的とし、期間を昭和三一年五月一日から六〇年間(赤松の一伐期)とする控訴人の地上権若しくは賃借権類似の使用収益権が発生した。

その後の昭和五二年の本件国有財産払下げが有効であるとしても、山梨県は桧丸尾の所有権と共に控訴人に使用収益させるべき地位をも承継したものであって、控訴人は山梨県に対して、植林目的で桧丸尾地区を使用収益する権利を対抗できる。

(二) 被控訴人らの主張

国管法による一時使用許可は、用材及び薪炭材の補給のための植林を目的とし、期間一年の定めで、昭和三一年から四八年まで一年毎に更新されたに過ぎず、地上権若しくは賃借権類似の使用権といえるものではないし、右使用権も、同四八年五月一九日本件土地が合衆国軍隊から日本国に返還されたのに伴い、国管法四条二項により消滅した。

4 被控訴人らの明渡等の請求は権利濫用に当たるか。

(一) 控訴人の主張

原判決書一二枚目表三行目から末行までのとおりであるからこれを引用する。

(二) 被控訴人らの主張

権利濫用の主張は争う。

5 控訴人は本件入会権を主張する忍草入会組合の正当な承継者であるか(当審の新争点)。

(一) 被控訴人らの主張

控訴人忍草入会組合の代表者である天野重知は、昭和四八年一二月二五日、前記のとおり忍草部落の住民の入会地の保護管理等を目的とする忍草入会組合の正当な代表者として就任したが、同人は、昭和五〇年一月二九日、忍草区の区民総会(大会)において区長を解任され、忍草入会組合の代表者につき忍草区の区長がこれを兼任する旨定めた忍草入会組合規約一一条三項により、同組合の代表者の地位を失った。控訴人主張の忍草部落住民の諸権利について保護管理等をする立場にある忍草入会組合は、控訴人とは別のものとして存在しており(平成八年五月二二日当審弁論終結時の代表者は天野圭)、控訴人は同一の名称を称しているが、正当な忍草入会組合とは異なるものである。

(二) 控訴人の主張

忍草入会組合規約一一条三項に定める区長とは、入会権の主体であるいわゆる実在的総合人としての忍草部落住民の意味をもつ忍草区の区長の趣旨であり、昭和五〇年一月二九日の忍草区の区民総会(大会)は、右忍草区(実在的総合人)とは異なる行政区である忍草区の区民大会に過ぎず、同大会において天野重知が区長を解任されても、忍草入会組合の代表者の地位を喪失するものではない。さらに、右区民大会での解任には合理的理由がないから無効である。

四  証拠の関係は原審及び当審の証拠目録記載のとおりであるから、それぞれこれらを引用する。

第三  主たる争点に対する判断

一  争点1(本件国有財産払下げの効力)について

当裁判所も、本件国有財産払下げに無効事由は認められない、すなわち、本件国有財産払下げは、(1) 会計法二九条の三第五項、予決令九九条に定める場合に当たり、(2)会計法二九条の八、予決令一〇〇条一項七号に定める契約書の記載事項を欠くものではなく、(3)売買代金が低額であり、その公正性を欠く等の事実を認めることのできる証拠もなく、民法九〇条に反するものではないと判断する。その理由は、次に付加訂正するほかは、原判決書一五枚目裏一一行目から一六枚目裏一〇行目まで、一七枚目表二行目から同末行まで及び一七枚目裏二行目から五行目までのとおりであるから、これらを引用する。

1 原判決書一六枚目表九行目の「払い下げ」を「払い下げて」と改め、同一〇行目の「演習場」の前に「合衆国軍隊ないし自衛隊による」を加え、同裏二行目、七行目、同一七枚目表五、六行目(二か所)、同九行目、同一七枚目裏二行目及び四行目の各「本件売買契約」又は「本件売買」をいずれも「本件国有財産払下げ」と、同一六枚目裏九行目の「予決令九九条二一号の場合」を「予決令九九条二一号に定める場合」と、それぞれ改め、同六行目の「が認められる。」を次のとおり改める。

「が認められ、また、前掲甲第七、八号証、第九号証の一、二、第一九号証に加え、同第一五五ないし一五七号証、乙第二〇号証、第三三号証(一部、一三枚目前後)、第三六号証、第四〇号証、第五〇号証の一、二によれば、山梨県は、本件国有財産払下げに備えて昭和五二年八月、山梨県北富士県有地管理規制を制定したが、同規則二条においては、払下げ地における林業整備事業を分収造林特別措置法(昭和三二年法律第五七号)に基づく分収造林により実施するものとし、右分収造林においては、山梨県が土地所有者として土地を提供し、地元地方公共団体(富士吉田市、忍野村、山中湖村及び富士吉田市外二ケ村恩賜県有財産保護組合)である者が造林者として造林し、かつ、造林に掛る費用を負担すると定められていること、右保護組合は、地方自治法二八四条及び同附則一一条による地方公共団体の組合(一部事務組合)であること、山梨県は、右管理規則に基づき、右払下げを受けた土地のうち梨ケ原地区の土地について、保護組合のため地役権を設定した上、昭和五二年一二月二七日付け及び昭和五四年一二月四日付けで、期間を六〇年及び六一年とする分収造林契約を締結し、保護組合では、忍草区を含む関係市村の協力を得て、右土地上に三三万本余の赤松の苗木及び四万本余のカラ松の苗木を植栽したこと、保護組合は、右昭和五二年の分収造林契約を締結するについては、昭和五二年第四回定例会続会に付議して可決したが、右会議には忍草区の議員も出席し、賛成したこと、なお、本件国有財産払下げについては、国としては、払下げの相手方が林業を行うことが前提であると考えており、控訴人が主張するように、保護組合への再払下げを当然の前提とした、いわゆる「一時預り」の考え方により払下げたものでないこと、がそれぞれ認められる。」

2 原判決書一七枚目表一〇行目の「認めることができず」から一一行目末尾までを「認めることができない。」と、同裏三行目の「足りる証拠は提出されていない」を「足りる的確な証拠はない。控訴人は、乙第一三号証の一及び一四号証の二を援用するが、これらは雑誌の記事に過ぎず、これをもって本件国有財産払下げの代金が廉価に過ぎ、公正さを欠くものと認めるには足りない」とそれぞれ改める。

二  争点2(忍草部落の住民の入会権)について

当裁判所も、古来忍草部落の住民が有した入会権は、本件売買又は国の未墾地買収により消滅したものであり、その後再発生したと認めるに足りる証拠はないと判断する。その理由は、次に付加訂正するほかは原判決書一七枚目裏八行目から二一枚目裏一〇行目のとおりであるからこれを引用する。

1 原判決書一七枚目裏八行目の「前記一」から同行末尾までを「前記第二の二当事者間に争いない事実及び容易に認定できる事実1、」と、同九行目から一〇行目にかけての「第一五号証」を「第一五号証(第二四号証と同一)、第二二号証」と、それぞれ改め、同一〇行目の「乙第二四号証の一、二」の次に「、第四四号証、控訴人代表者尋問の結果(原審)の一部」を加え、同一一行目の「別荘地及び鉄道敷地」を「別荘地等」と、同一九枚目表七行目の「本件土地は」を「本件土地を含む桧丸尾地区は」と、同裏二行目から三行目にかけての「保護組合の直轄地とされ、旧一一か村の村民によっても」を「他の部落からは地理的に不便なこともあって、専ら、あるいは主として忍草部落の住民により利用され、他の部落の住民によっても」とそれぞれ改め、同二〇枚目表三行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「乙第二号証中(一一四頁以下)には、昭和二二年一一月二二日付けで訴外会社名義で作成された「証」と題する書面の中に、「当社と忍草部落との関係は、同地買収直後同部落より該地に対し燃料・やといもや・柴草等の採取慣行ありたる事の申立ありしにより、当社は之を容認し爾来之の慣習の続行を認めおるものなり」等の記載があり、また、昭和二五年二月六日付けで訴外会社(甲)と忍草区(乙)との間で交わされた「覚書」(同証一一六頁)の中には、「甲は梨ケ原及び桧丸尾の土地につき乙が従来の慣行に基づき当社所有の該土地に立ち入り、落葉、下草、下枝等を採取する事を認める」等の記載があることが認められるが、訴外会社との本件売買の二十数年後にこのような文書が作成された経緯が必ずしも明らかでない(控訴人代表者の原審供述及び乙第三一号証によれば、これらは、当時進められていた国の未墾地買収に関連した農林省等に対する抗議、要請行動等を有利に運ぶために訴外会社から得たり、交わしたりした文書であるという)のみならず、右覚書の中には、同時に「乙が該地に立入る場合には予め甲の承諾を得た上で団体行動の上入山するものとす」、「甲が必要と認むる観光施設をなす場合乙は異議を申出ざること」等の記載も見られるのであり、これらによると、右文書作成当時も忍草部落の住民が本件土地等において採草行為等をすることを訴外会社が容認していたことは認められるが、更に進んで、訴外会社が忍草部落住民の入会権を認めていたとまで認定するのは困難である。したがって、また、後記認定のとおり、乙第二号証をもって入会権の再発生の根拠とするには足りない。」

2 原判決書二〇枚目表五行目の「乙第五三、第五四」から八行目末尾までを次のとおり改める。

「甲第一二二号証、乙第三一、第三二号証、第五三、第五四号証及び控訴人代表者の原審供述はこれに副うが、前掲甲第一号証の二(訴外会社との土地売買契約書)及び乙第二号証中の覚書等にもその趣旨を窺わせる文言は記載されておらず、また、控訴人代表者の右各供述では、右の入会権留保合意の時期が本件売買契約の前か後か明確でない上、前記のとおり対象地が別荘地等として売却されるものであったこと、甲第一号証の二によれば本件売買の売渡価格は「地上物件補償料」を含めて定められており、その売買契約書の作成には、忍草区長ほか関係村長が保護組合の保証人として署名していることに照らせば、右控訴人の主張に副う証拠はにわかに採用することができない。」

3 原判決書二〇枚目裏一〇行目の次に行を改めて次を加える。

「なお、控訴人は、本件売買又は国の未墾地買収後も控訴人組合員の集団的統制の下での入会稼ぎの実態があったからこそ、これを前提にして、昭和二八年二月一六日に「占領期間中における林野関係雑損失補償要領」が、また、昭和二八年八月一九日には「林野特産物損失補償額算定基準」がそれぞれ制定され、控訴人組合も昭和二五年に遡って右補償を受けた旨主張し、乙第二号証、第六号証、第一六号証、第三二号証、第五四号証、原審における控訴人代表者の供述等を援用する。控訴人が、当時本件土地等への入会権を前提にして、山梨県、防衛施設庁、横浜防衛施設局等関係官庁に対し粘り強い折衝を重ねた結果、右補償金の支給を受けるに至ったことは右各証拠からも認められるが、他方、右補償金の支給対象とすべきかどうかについては種々の政策的、政治的配慮が働いたことが、前掲乙第六号証(参議院内閣委員会会議録)等からも窺えるところであり、右の控訴人主張事実をもってしても、直ちに本件売買又は未墾地買収後の控訴人の入会権行使の事実の裏付けとするには到底足りず、したがってまた、入会権再発生の根拠とすることもできない。」

4 原判決書二一枚目表二行目の「及び被告代表者尋問の結果」を「、控訴人代表者尋問の結果(原審)及び弁論の全趣旨」と、同六行目から七行目にかけての「昭和五七年に小屋を建築したが」を「昭和五八年一月ころに小屋を建築したが(小屋建築の時期については、控訴人と山梨県との間で争いがない。)」と、同七行目から八行目にかけての「右闘争のために小屋等を建設していること」を「右闘争などのために本件建物(二)、本件工作物(三)、本件建物及び工作物(七)1ないし6を含む小屋等を建設していること」と、それぞれ改め、同二一枚目裏九行目から一〇行目にかけての「理由がない」の次に、「(なお、控訴人は、下草や薪炭材等の必要が少なくなった現代においては、「入会の森キャンプ場」のように、立木を伐採せず、あるがままの姿で自然環境と共に利用するのが入会権行使の現代的形態である旨主張し、控訴人代表者は原審及び乙第五四号証でその旨供述するが、もとより独自の見解であって採用できない。)」を加える。

三  争点3(地上権若しくは賃借権類似の使用権の存否)について

1 《証拠略》によれば、次の事実を認めることができる。

(一) 関東財務局長は、昭和三一年五月一日、国管法四条一項に基づき、安保条約に基づく地位協定を実施するため合衆国軍隊に演習場として提供されていた本件土地を含む桧丸尾五六〇七番の土地三四町八反八畝につき、次の使用条件を付して、忍草入会組合(許可書の名義は忍草入会組合長渡辺主計」に対して一時使用許可をした。

(1) 使用目的 用材及び薪炭材不足のため将来の補給を目的として植林を行う。

(2) 使用期間 昭和三一年五月一日から昭和三二年三月三一日

(3) 使用料 四万〇九七九円

(4) 使用期間中に合衆国軍隊が協定条件(安保条約三条に基づく行政協定二条二項(a)但書に規定する合意。昭和三五年条約第七号による改正後は、安保条約六条に基づく行政協定二条四項(a)但書に規定する合意)に基づいて使用財産を一時的に使用することになった場合には、使用者は財務局長の通知により使用財産の使用収益を中止して、合衆国軍隊の用に供する状態にしなければならない。

(5) 使用期間が満了したとき、法四条二項により使用収益する権利が消滅したときは、使用物件を原状に回復して国に返還しなければならない。但し財務局長がその必要がないと認めたときはこの限りでない。

(二) 忍草部落住民は、本件土地を含む右土地に赤松等を植林し、その後右許可は一年ごとに同様の条件で更新され、最終のものとしては昭和四八年三月一六日に横浜防衛施設局長により同年四月一日から一年として一時使用許可がされた(なお、この際の使用許可においては、使用目的について、「なお本件には採石は含まない。」旨が付記されている。)。

(三) その後、昭和四八年四月六日の日米合同委員会の合意により北富士演習場が返還され、我が国の自衛隊が管轄管理する演習場として使用されることになり、横浜防衛施設局長は忍草入会組合に対し、同月一〇日付けの書面をもって、右趣旨と、前記本件土地等の一部の一時使用許可は合衆国軍隊からの返還日同月一一日をもって終了し、残部も近く返還される日をもって終了する旨通知し、同年五月一九日、書面により、右残部についても同日をもって合衆国軍隊から返還された旨通知した。

(四) さらに、横浜防衛施設局長は忍草入会組合に対し、昭和四八年一一月二七日付け書面をもって、右の合衆国軍隊からの返還措置に伴い、本件使用許可に係る国有地について、<1>自衛隊の管轄管理する区域並びに返還区域とに分けて、その範囲、面積等を特定するとともに、<2>返還の時期に対応して一時使用許可の修正等所要の手続を終了の上、それぞれの国有財産管理者に引継ぐことになったので、測量の立会いについて協力を求める旨、また、昭和四九年二月二五日付け書面をもって、合衆国軍隊からの前記各返還措置に伴い、それぞれの返還日をもって本件一時使用許可は終了していること及び測量の結果に基づき、使用期間、使用料等を一部変更する旨をそれぞれ通知した。

《証拠判断略》

2 国管法二条により合衆国軍隊の用に供された国有財産(いわゆる提供財産)は、我が国が自らその事務、事業等の用に供するものではないから、国有財産法上の行政財産には当たらず、普通財産であると解される。しかしながら、提供財産は、安保条約に基づく我が国の義務の履行のために利用されている財産であるという意味では、国の行政目的達成のための財産として、むしろ行政財産に近い性質を有するものと考えられる。

行政財産は、国有財産法一八条一項により、原則として処分あるいは私権の設定が禁止され、私権の設定が認められるのは、同条項但書により、その用途又は目的を妨げない限度において国が地方公共団体等と建物を区分所有するために土地を貸し付けるとき等極めて限定されているが、その用途又は目的を妨げない限度で使用収益の許可をすることができるとされている(同条三項)。右のいわゆる目的外使用許可は行政処分であり、同条一項で、私権の設定を原則的に禁止していることに照らせば、同条三項の使用許可により私法上の権利を発生させるものとは解せられない。右使用許可により使用収益できる地位が、一種の使用権に準ずるものと見られるとしても、これは行政財産に由来する内在的制約を伴っているものであり、右使用収益できる地位ないし使用権に準ずるものは、特段の事情のない限り、使用許可が更新される場合を除いて、使用許可の期間の満了あるいは許可に付された消滅事由の発生等により消滅するものと解するほかはない。同条二項が同条一項の制限に反して私権を設定する行為を無効とし、同条五項が使用許可による使用について借地借家法(平成三年法律第九〇号による国有財産法の一部改正前の国有財産法一八条五項においては借地法(大正一〇年法律第四九号)及び借家法(大正一〇年法律第五〇号))の適用を排除し、国有財産法一九条が準用している二一条以下により、一方的解除が認められる場合のあること等は、右法律関係を前提としているものと解せられる。

他方、国管法四条一項が国有財産法上の普通財産の利用権設定に関する規定には全く言及せず、同条二項が利用権の消滅原因を独自に規定していること、提供財産は、本来は合衆国軍隊の利用に供されるべき財産として日米間で合意されたものであり、その一時使用の許可は、本件についても前記使用許可条件においてみられるとおり、合衆国軍隊が一時的に使用していないときに臨時に使用が許されるものであり(現行日米地位協定二条四項(a))、その性質上、安定的な利用権の設定が予定されているものとは解し難いこと等に照らせば、国管法四条の規定も、提供財産については私法上の権利を設定することを予定していないと解さざるを得ない。そうすると、提供財産についての国管法上の一時使用の許可は、右国有財産法一八条三項所定の行政財産の目的外使用の許可に準ずる性質を有するものとして行政処分に当たり、右使用許可によって設定された利用権は公法上の利用権であると解するのが相当であり、国管法四条二項の定めるとおり、合衆国軍隊から目的物件が返還されたときにその使用関係も消滅し、所有者に返還すべきこととなるとみるほかはない。なお、控訴人は、昭和四八年に右使用許可が終了した時点で地上権若しくは賃借権類似の使用収益権が発生したとも主張するが、これを認めることのできる証拠は全くない。本件一時使用許可において、使用目的が薪炭材等の将来の補給を目的として植林を行う旨、ある程度長期間が予想される許可の態様をなしていることを考慮しても、右の解釈を左右するには至らず、また、他に使用関係の消滅を妨げるべき特段の事情を認めることはできない。

以上によれば、地上権若しくは賃借権類似の使用収益権が発生した旨、あるいは山梨県が、控訴人に対し植林目的で本件土地を使用収益させるべき地位を承継した旨の控訴人の主張は理由がない。

3 なお、控訴人が当審において主張するその余の点について触れておく。

(一) 控訴人は、本件一時使用許可の法律関係は、行政財産の目的外使用と同様の性質を持ち、私法原理が適用され、使用権者の権利は私権の性質を持つとみるべきで、賃借権あるいは地上権に類似の権利を有すると解すべきであるとし、その利用目的が「植林」であることからすると、その期間は国有財産法に準じて六〇年とするべきであると主張する。当裁判所も本件一時使用許可の法律関係が行政財産の目的外使用に近いものであると考えるものであるが、そうだとしても、私権が成立するとみることができないことは既に判示したとおりである。

(二) 控訴人は更に、右一時使用許可の期間一年は許可条件の存続期間と解すべきで、期限の到来により許可が失効すると解するのは妥当でなく、植林を目的とする使用収益権を内容とする許可処分である以上、当該使用権の存続期間は六〇年であり、その期間の更新を妨げられるべきでないと主張する。

右主張の趣旨は必ずしも明らかではないが、本件一時使用許可の使用目的が植林であることからすれば、合衆国軍隊の使用の必要性が生ずるなど、特段の事情の変化がない限り、許可が更新されることが予定されていたであろうと推測できないではなく、現に合衆国軍隊より返還を受けるまでは約一七年間にわたりこれが更新されてきたことは既に見たとおりである。しかし、本件一時使用許可にはその都度期間が付されていたことは明らかな事実であり、控訴人代表者の供述するように、単に形式上一時使用許可の形をとったに過ぎないとは解せられないのみならず、提供財産としての前認定の性質に鑑みれば、右のような事情の変化に対応するためにできる限り短い期間を定めておくことの合理性も否定できない。そして、本件一時使用許可の法律関係は、国管法四条二項の事由により消滅すると解するほかはないことは前記のとおりである。

(三) 控訴人はまた、国管法四条二項の使用関係の消滅条項は、法的附款であっていわゆる「例文的取消権の留保」とみるべきで、行政庁が留保した取消権の一方的行使が認められない場合に該当する旨、特に本件土地の使用目的が「植林」であることからすると、右取消権の行使は条理に反する旨主張し、さらには、右一時使用許可の法律関係が消滅するとしても、本件の場合は、国管法四条二項の規定にかかわらず使用権者がなお当該使用権を保有する実質的理由を有すると認めるに足りる特別の事情が存する場合であり、本件植林を目的とする使用権は、合衆国軍隊からの返還後は特別法たる国管法の制約から解除され、一般法たる国有財産法上の使用権として存続すると解すべきであるとも主張する。

しかし、国管法二条により合衆国軍隊の用に供された国有財産は、合衆国軍隊の使用に供されている限度で、一時使用許可がされているに過ぎないのであって、右合衆国軍隊の使用の必要がなくなり、返還された場合には、改めて国有財産としてその使用につき検討がされ、その際に、国の政策上、国管法四条一項による一時使用許可を受けていた地位が考慮される可能性があるにせよ、その使用関係が消滅しないとか、右消滅後に、なお国有財産法上の使用権として存続する等と解すべき根拠はない。また、前記の取消権の行使は条理に反するとの点については、取消権であるとの前提自体が独自の見解であり、採用の限りでない。

四  争点4(権利濫用)について

控訴人に入会権、地上権あるいは賃借権類似の権利が認められないことは既に判示のとおりであり、山梨県が本件土地を巡る問題の円満解決について誠意ある態度を示さず、控訴人の分裂を策動をしてきた旨の主張事実については、一部これに副う《証拠略》は採用できず、他に右事実を認めることのできる的確な証拠はない。

また、国管法四条二項により前記一時使用許可の関係が消滅した後、国あるいは山梨県が控訴人の本件土地利用につき何ら異議をとなえず、明確な態度をとらなかったことがあったとしても、弁論の全趣旨によれば、国及び山梨県は右一時使用許可の関係消滅後、本件土地を含む関係土地のその後の利用につき関係諸団体と協議を重ね、その方策を講じてきたことが認められるのであり、前記の事実から直ちに権利濫用の主張を認めることはできない。

さらに、控訴人の援用する北富士県有地管理規則によれば、北富士県有地を林業整備事業の用地として管理するものとされ、県が土地を提供し、地元地方公共団体が造林者として造林することとされ、規則施行の際、現に樹木が存在し、分収造林が困難な地域には、一伐期に限り分収造林に準じた事業を実施できるとされている(同規則附則二項)が、山梨県が既に梨ケ原地区について保護組合との間で分収造林契約を結んで植林事業に着手していることは前認定のとおりであり、控訴人の組合員が植栽育成した樹木について、山梨県が右附則に基づく取扱いを実施しなかったとしても、既に認定した控訴人の土地利用の実態等に照らせば、これにより直ちに本件請求が権利濫用となるとはいえない。

控訴人は、本件土地上の建物等を赤松の育成等入会権行使のために設置したものであるとも主張するが、控訴人の入会権その他本件土地の使用収益権が消滅したこと、及びこれら建物等が、名目はともかく、実質的には東富士五湖道路建設の反対闘争等のため、又は観光目的の施設として建設されたものであることも既に判示のとおりであり、右主張は採用できない。

その他、控訴人の主張をすべて検討しても、本件建物等収去土地明渡請求が権利の濫用に当たるような事由を認めることができない。

五  妨害の虞れ及び確認の利益

既に判示の事実に鑑みれば、控訴人が、今後も本件土地(四)上に建物や工作物を設置して、道路公団の右土地の使用を妨害する虞れのあることは明らかである。

また、山梨県は、桧丸尾五六〇七番二七四の土地を道路公団に売り渡したことは認めつつ、なお本件訴訟において同土地所有権に基づく土地明渡請求を維持しているので、道路公団の所有権確認の利益を肯定できる。

第四  結論

以上のとおりであるから、その余の争点につき判断するまでもなく、甲事件についての山梨県の請求を棄却し、乙、丙及び参加事件についての山梨県及び道路公団の各請求をいずれも認容した原判決は相当であって、本件控訴は理由がない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 荒井史男 裁判官 田村洋三 裁判官 豊田建夫)

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